彼女は玄関の扉を開けた。
扉の向こうはバカみたいに
明るく輝く太陽が居た。
狂った風が何の断りもなく
僕の部屋に幾つも幾つも
入ってきた。
風にあてられた僕は
昨日の出来事を
思い返すハメになる。
23時18分
台所の包丁を片手に叫ぶ彼女。
23時42分
僕に対する罵詈雑言を
細かく、的確に連ねる。
23時51分
テルマエロマエの
DVDディスクを手に取り、
デッキのトレイに流し込む。
23時58分21秒
阿部寛のセリフに被せて
「ごめん」と呟く。
23時59分3秒
上戸彩が出てくるよね、と
僕に笑顔を向ける。
23時59分20秒
面白そう、と言う。
23時59分45秒
ビールの缶をじっと見つめる。
23時59分58秒
うつらうつら。
…
9時3分
帰るね、と彼女。
9時56分
玄関の扉を開ける。
彼女が帰って一人になった部屋。
冷蔵庫に入っていた
ハーブティーを飲んだが
なぜだか胃薬の味がした。
彼女の作った、調合した、
レモングラスにカモミール。
その事を彼女に穏やかに
責めたてるように言いたかった。
彼女は今頃
ドン・キホーテの前を通り過ぎ
10時32分の急行に
乗る予定だろう。
窓ガラスは、ガタガタと、
何かを諭すよう、
何かを急かすようだった。
10時38分
僕は席を立ったが、
10時38分48秒
また椅子にこしかけた。
10時40分
スマホを手に取り、
「こっちこそ昨日はごめん」と
メールを送る。
11時ちょうど
返信が来る。
昨日の映画、面白かったね。
11時6分
立て続けにもう一通。
今度はエバが観たいな。
14時39分
じゃあ、またおいでと僕。
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